世界的な日本食ブームを受け、海外での【和牛】の人気が勢いを増しています。今後もさらに市場が拡大されていくと見込まれています。

世界の和牛市場規模は、 2023年に242億米ドルと評価されました。予測期間(2023~2031年)中に6.4%のCAGRで成長し、 2032年には419億米ドルに達すると予測されています。プレミアム品質の肉とユニークな食事体験に対する消費者の需要の高まりが、和牛市場の成長を牽引しています。

(引用) https://straitsresearch.com/jp/report/wagyu-beef-market

海外進出する産品として、和牛は国内外から期待されていますが、現状はどうなのでしょうか?そしてどんな課題があるのでしょうか?今回はカナダで日本産和牛の市場拡大、認知向上に努めているスペシャリストに「日本の和牛産業の現状と未来」についてお話ししていただきました。

お肉博士1級 精肉のスペシャリスト

岩手県の肉屋で15年間の経験を積み、現在はカナダのウェストバンクーバーにあるAburi Marketの精肉部門でリーダーとして和牛のカット技術を指導しながら、いわて和牛の認知度を高めるために尽力しています。

肉も魚も捌けるスペシャリスト

岩手県で10年間魚屋、11年間肉屋、1年間居酒屋のキッチンでの経験を積みました。現在はカナダのウェストバンクーバーにあるAburi Marketのキッチン部門で働き、いわて和牛を使った創作料理を提供をすることで、その認知向上に貢献しています。

Valuablelink Consulting Inc.代表

【国と国をつなぎ、人と人をつなぐ】というミッションのもと、カナダで市場調査・販路拡大の提案・現地視察などのサポートを行っています。

日本産の和牛に関して言えば、需要が拡大しているとは正直思っていないんですよね。私が働いているAburi Marketでは、「いわて和牛」の1頭買い、プロモーションやイベントの開催をしているので、お客さんが集まってくれています。実際カナダ全体を見ると、すでにカナダや世界での認知度が高く、現地のレストランで使われてきている「宮崎和牛」などが今まで通り使われているだけで、日本産の和牛の需要拡大・認知拡大にまで至っていないというのが私の見解です。

世界で売られている和牛は海外産が主流になってきています。オーストラリア、アメリカ、中国、ヨーロッパ産があります。オーストラリアでは「(英語表記)Wagyu」を商標登録し、知的財産として守っています。世界の「Wagyu」の定義は 兵庫県の但馬牛の遺伝子を持っていて、脂とサシが入っていることです。純血(※1)・交雑(※2)は関係ありません。少しでもこの遺伝子が入っていれば良いというのが現状です。しかし海外の売り場では日本産の和牛とオーストラリア産などのWagyuが明確に区別されていないんです。

(※1) 遺伝的純度が高く、品質の一貫性が保たれている和牛の品種。細かなサシ(霜降り)と柔らかさや独特な風味が特徴的で、血統管理が厳格に行われています。
(※2)和牛と他の牛種との交配によって生まれた牛。肉質は純血和牛ほどのサシはないが、良質な肉が生産でき、成長が早く、飼料効率が良いため、生産コストが低いです。

日本産の和牛でカナダや世界で認知・拡大されているのは「神戸和牛」「宮崎和牛」「鹿児島牛」「上州和牛」ですね。「飛騨牛」は以前見かけたことがありましたが、最近は見ませんね。

カナダで茨城県産の常陸牛のイベントが開催されているのを見かけましたが、1度だけの期間限定だけだったようで、拡大にまで全く至っていないです。イベント開催は人を呼ぶための話題性はありますが、拡大・継続を目標をもとに計画しないと意味がありません!!!

純血の和牛より値段が安い海外産の交雑種のWagyuが日本に入ってくると思います。

海外産のWagyuに市場を独占されれば、日本産の和牛は終わりの一途を辿ってしまいます…..

このままいけば、日本の畜産業はさらに衰退していきます。1990年代に多くの和牛の生体が海外へ輸出されており、海外ではその遺伝子をもとに精力的にWagyuの生産を行っています。オーストラリアではWagyuの血統データが存在し、血統証明書もあります。日本は、2020年にやっと和牛遺伝資源の保護のために知的財産制度を確立させました。

日本では脂身が美味しいと評価されますが、カナダでは脂身が少しでもついていると敬遠され売れません。脂は身体に悪いという認識が強いですね。

カナダでは肉の脂を切って売る・使うというのが普通だからだと思います。

日本では脂をのせて売るので、利益が取れます。一方でカナダでは肉の部分しか売れないのでその分利益が減ります。和牛のカット技術があり、歩留まりを計算(※3)できる人がいないとカナダで継続して売るのは難しいと思います。現地で採用して少しトレーニングするだけでは手に入らないスキルです。歩留まりが悪くなれば、和牛の単価を上げなければなりません。

(※3)製造や加工工程において、原材料から最終製品として利用できる部分の割合を計算することを指します。

つまり価格が安い交雑種の和牛の方が1番売れるということになりますよね。そうなると日本産交雑の和牛であれば、海外産のWagyuと同じ土俵に立てるということになります。純血の和牛と交雑のWagyuが同じ市場で売られるべきじゃないんです。

脂が好まれていないということは、健康に悪いのでしょうか?

実は良質な和牛の脂は、オリーブオイルに含まれるオレイン酸が多く含まれています。これには血液中の悪玉コレステロールを減らし、善玉コレステロールを増やす働きがあります。また和牛の脂の溶ける温度が体温より低いので身体に残りません。このような知られていない健康的メリットもお客様に伝える必要があります。

海外進出する和牛のランクはA5であるべきでしょうか?

やはり「A5 日本の最上級和牛」というセールスポイントがあるので売りやすくはなります。その一方で、A5和牛はローカル牛と比べると脂身がかなりのっているので、日々日頃から食べる品ではなく、特別な時に食べる品という認識になってしまうと日常的に売りづらくなるという一面もあります。

あとはお客様に「A5とは何なのか」をしっかり知ってもらう必要があります。

Aの意味 歩留まり等級=牛からどのくらい商品となる牛肉が取れるのか
5などの数字の意味 肉質等級=牛肉の色沢、牛肉の締まりときめ、脂肪の色沢と質、脂肪の入り具合

ここをお客様に理解してもらえれば、海外で売る和牛を最上ランクのA5だけにする必要はないと考えています。和牛のA4はカナダで言うプライムより上ということも、知らない人がほとんどです。

カナダの消費者の中ではアジア人が多く、スライスやホットポット用のカットが好まれます。特に中国系のお客様はまとめ買いをしますね。白人を含むその他の方々は脂身が少ない部位ラウンド(もも肉)やショルダー(肩ロース)を好みます。またお金持ちの方々はパーティーなど特別な日のためにリブアイやストリップローインなどネームバリューがある部位を買う傾向があります。お金持ちの層や新規のお客様を獲得するにはプロモーションやイベント等をして、リピーターになってもらわなければなりません。まずお客様に対して積極的なアプローチをしなければ、和牛の拡大も継続もできないと思います!

北米のスーパーマーケットではお肉が赤身の塊でカットして売られていることから分かるように、がっつりと食べられる赤身肉が好まれています。その食文化を考慮すれば、脂身が程よい交雑のWagyuの方が消費量が多いのは理解できます。その一方で、純血のA5になるとどの部位でも、他の普通のお肉と比べれば、脂身が強くなります。なのでたくさん食べるより、少量で風味と味を楽しんでもらう売り方の方があってると思います。

国によってお肉の切り方は違ってくるので、現地のお客様のニーズに合わせたカットが必要になります。現地の精肉加工業者と直接話し合いつつ、カット技術を伝授できれば、より面白いアイディア・商品が生まれるはずです。

あとは差別化が図れるようになることですね。例えば「いわて短角牛」アミノ酸が多く脂肪分が少ない肉肉しい高タンパク牛肉です。自然交配させ、春から秋にかけて山に放牧し、冬は牛舎で育てる、夏山冬里方式という特別な育て方を採用しています。さらに日本の短角牛は年間3000頭が出荷され、岩手県は短角牛種発祥の地ということもあり、そのうちの40%をシェアしています。赤身を好む現地の方のニーズにあっていて、希少価値が高い「いわて短角牛」を海外進出させれば、市場拡大の一歩に繋げられるかもしれません。しかし、日本はしがらみが多い上に動きが遅いということもあり、このような取り組むべき事が明確であったとしても、すぐに動くことが出来ません。日本のため、岩手県、会社のために!と尽力を尽くしています。日本側でも全力で取り組んでいる方ももちろんいますが、常にもどかしさを抱えているのは否めません。

日本が流通の整備をする間に、中国などのアクションが早い国に市場を取られてしまいます!県から予算をもらったとしても、商品の海外進出は容易なことではありませんので、ビジネスとして販路の拡大・認知向上・売上などの目標を明確に立て、実行するべきです。ぜひしょうごさんとまなきさんには、いわて和牛の海外進出の一例を作っていただきたいです!

海外進出の一例を作れば、岩手県だけでなく、私が勤めている株式会社いわちくにも貢献ができます。ただ本当に日本はしがらみが多いので、独断で動くことができません。輸入業者や現地の会社からもよく指摘されるところです。その状況が続いていくと、より一層拡大が難しくなるんですよね。

日本のものが海外進出できないのは、日本国内に問題があるからだと思います。

日本は世界に誇れる高品質のものを数々生み出しています。様々な事情によりそれらが海外進出できていない悲しい事実はありますが、一概に日本全体が悪いのではありません。

日本の現状を見ると、人口減少に伴い、後継者がいなくなることで生産者がいなくなってきています。さらに他の国による日本のパクリ商品の横行が目立ってきています。彼らは、Made in Japan, Produced in Japanの商品が欲しいんです。今はそれを謳うだけで信頼を得られますからね。この先日本の農家や畜産が他国の企業に買われていき、大量生産にのみ焦点が当てられれば、品質の維持が難しくなっていくでしょう。農作物で言えば、すでにその状況がカナダで見受けられ始めています。

食品安全の基準や規定は大きな壁です。この分野おいて、日本はかなり立ち遅れています。グローバルGAP、HACCP、FSSC認証などいろいろな世界水準の認証がありますが、それらは海外輸出事業を進める上で必要なパスポートみたいなものです。 その上、 輸出先の国が定めた基準だけではなく、高級食材店などはそれぞれ独自の基準を持っている場合もあります。消費者の食の安全に対する意識向上や、アニマルウエルフェアの観点から、何を食べてどんな環境で育ったかなどの情報が付加価値として認識されているからです。

仕入れ値も問題を抱えています。生産者からお客様の手元に届くまでに仲介している会社が多すぎるために、和牛の仕入れ値がその分上がってしまいます。中抜きがなければ、生産者にも還元できますし、価格を下げた海外産のWagyuにも太刀打ちできます。

サポートはまだ不十分です。まずは資金が必要です。エンターテイメント性がある和牛の解体ショー、知識共有、技術指導も全て、当然ですがお金がかかります。いわて和牛を広めたいという熱意だけでは続きません。日本国や県全体が輸出を広げるために、出資しようという意気込みがないと今後も状況は変わっていかないと思います。そして今までのように期間限定で試食会やイベントをやるだけでは、拡大や継続に繋げられていないのだから、資金の他の使い道として、次の一手は現地での技術指導なのではと考えています。

技術指導でかかるお金は、加工業者や販売先が出すべきではあると思いますが、国や県がサポートできればより良いです。カナダで技術指導ができれば、その知識が何年後、何十年後にも残りますし、しょうごさんやまなきさんがここに来た甲斐がありますね!

日本の商品を売るためには、こちらの努力だけではなく、日本側の協力も必要です。こちらが一生懸命動いても、日本側が協力を拒否すると計画は成り立ちません。そのため、日本側とコミュニケーションを図り、協力体制をしっかりと築くことが重要になってきます。

あと熱量にも問題があります。日本から『協力してください』とお願いされて『では仕入れ先を探しましょう、販促を行いましょう』というのが正しい筋だと思いますが、現状では海外にいる我々が一生懸命努力しているにもかかわらず、日本側の熱意がいまひとつ感じられません。
形式的、立場的、みたいなところがあるのでしょうが、一緒に協力体制を築くには根気が入ります。ただその中でも、一握りではありますが、『畜産・農業を盛り上げよう!日本を守ろう!』という熱意に溢れた人もいる事は確かです。そんな人たちに出会うと、私も日本のために頑張らなきゃと思います。

日本の商品は高品質でこだわりがつまっています。それらを売るプラットフォームは、一般的なスーパーマーケットではないと思います。私は日本食専門のテーマパーク型スーパーマーケットを作ることを目標にしています!
もちろん、輸出先の輸入基準ををクリアした商品でないと売れませんが、日本の文化や和牛を含めた日本産品の紹介をしっかりお客様に伝えることができる「日本食のアンテナショップ」があれば1番良いと思っています。

海外で初の1店舗内で複数の和牛「黒毛和牛」「短角和牛」「交雑種」を取り扱う専門店を作りたいです。比較も、差別化もできますし、そんなことができたら面白いですよね!

現在はキッチンで働いているので、これまでの経験を活かし、いわて和牛を使った創作料理を作ることでいわて和牛の良さ・美味しさを伝えていきたいです!

みなさん、様々な課題に直面しつつも、カナダで和牛の海外進出に力を注いでいますね!

世界的にも和牛自体の需要は増えているものの、日本産和牛より、海外産Wagyuの方が多く出回り始めています。和牛は日本発祥なのに… 日本人として、悲しい気持ちになりますね。”日本産”和牛は、フェアなどのプロモーションイベントで一時的に需要は増えますが、様々な課題が残されており、持続性のある市場拡大にはまだまだ繋がっていないというのが現状のようです。課題を解決するには、商品を生産者〜お客様の手元に届くまでを考慮できる日本と海外の現地を繋ぐ架け橋になる存在が必要だと強く感じます。世界に誇る品質・技術がある日本を、日本から、そして世界から応援し何か貢献したいという思いが募ります。

みなさんはどう感じましたか?

  • 海外産の主流化: オーストラリアやアメリカなどの海外産Wagyuが世界で流通している一方で、日本産和牛の独自性が薄れています。
  • ブランドの曖昧さ: 海外産Wagyuと日本産和牛との区別がされていません。
  • アジア人: スライスやホットポット用のカットが好まれます。
  • 白人を含む富裕層: パーティーなど特別な日のために認知度が高い部位(リブアイなど)を購入します。
  • 健康志向で脂身が少ない赤身が好み: 脂身が身体に悪いという認識が根強いです。日本産和牛の脂の健康的メリットがあまり知られていません。
  • 資金の調達: 和牛の解体ショーや技術指導などを行うためにも行政等の日本側からのサポートが必要です。
  • 食品安全基準: 日本の農家や畜産家などの生産者が国や小売店がそれぞれ定める食品安全の基準に合わせられていません。
  • 仕入れ値: 中間業者が多いため仕入れ値が上がります。
  • イベントの効果 イベントでの一時的なプロモーションはアイキャッチとして効果はありますが、継続的な販売には繋がりにくいです。
  • 現地でのカット技術: カナダでは和牛のカット技術が未熟さ故に、利益率が低下してしまいます。
  • 日本市場への海外産Wagyuの流入: 日本市場に価格が抑えられている海外産交雑種のWagyuがさらに流入し、日本産和牛の産業に危機が訪れる可能性があります。
  • 日本との協力体制:品質維持や現地にあった販売戦略をしていくためにも、行政だけでなく、生産者とも積極的にコミュニケーションを図る必要があります。
  • 市場拡大の戦略: 出来たものを売り込む「プロダクト・アウト」だけでなく、潜在顧客を調べつくした上で売れるものを作る「マーケット・イン」という別のアプローチも求められてきます。
  • 教育: 現地の精肉加工業者と連携し、カット技術の普及が鍵です。
  • 差別化: 海外産Wagyuと日本産和牛との差別化が重要です。
  • 潜在顧客へのアプローチ: 和牛の価値を理解してもらうための消費者教育が必要です。

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